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東京地方裁判所 平成9年(ワ)5505号 判決 1999年5月31日

原告

株式会社コトブキゴルフ

右代表者代表取締役

安本昌煥

右訴訟代理人弁護士

永島孝明

高初輔

伊藤玲子

被告

アクシネット・ジャパン・インク

右日本における代表者

渡辺一美

右訴訟代理人弁護士

田中徹

大塚一郎

平野高志

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙標章目録記載の標章を付したゴルフクラブ製品及びキャディバッグを輸入し、販売し、又は販売のために展示し、並びにその容器、包装紙及び広告に前記標章を使用してはならない。

二  被告は、その占有する前項記載の製品を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金二億五八二〇万円及びこれに対する平成九年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告が別紙標章目録1ないし3記載の標章(以下、順に「被告標章1」ないし「被告標章3」といい、あわせて「被告標章」という。)を付したゴルフクラブ製品等を輸入等する行為が、原告の有する商標権を侵害すると主張して、原告が被告に対し、右行為の差止め及び損害賠償の支払を請求した事件である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、ゴルフ用品販売を主たる業務とする会社である。

(二) 被告(設立時の商号は、「コブラ・ゴルラ・ジャパン・インコーポレーテッド」。平成一〇年七月一日、現在の商号に変更。)は米国法人であるが、その親会社(株式のすべてを所有する。)であった米国法人コブラ・ゴルフ・インコーポレーテッド(以下「コブラゴルフ」という。)の日本における総輸入代理店として、コブラゴルフが製造するゴルフクラブやその関連商品を輸入、販売している。

2  商標権

原告は、別紙原告商標目録1ないし3記載の各商標権(以下、順に「本件商標権1」ないし「本件商標権3」といい、あわせて「本件商標権」という。また、その登録商標を順に「本件登録商標1」ないし「本件登録商標3」といい、あわせて「本件登録商標」という。)を有する(甲三四ないし三九、乙二〇ないし二五)。

3  被告の行為

被告は、平成八年二月ころから、コブラゴルフの製造に係る、被告標章の付されたゴルフクラブ等(以下「被告商品」という。)の、輸入、販売を行っている。被告商品は、本件商標権の指定商品に含まれる。

二  争点

1  被告標章は本件登録商標に類似しているか。

(原告の主張)

被告標章1と本件登録商標1を対比すると、「KING cobra」の文字部分について、字体及び配置が若干異なるが、称呼、外観、観念において極めて類似し、王冠をかぶった蛇の図形について、全体の配置が異なるが、その外観において類似する。したがって、被告標章1は、本件登録商標1と類似する。また、被告標章1と本件登録商標2を対比すると、「KING cobra」の文字部分について、称呼、外観、観念において類似している。被告標章1は、本件登録商標2とも類似する。

被告標章2は、被告標章1の右に、ローマ数字のⅡを付加したものであり、その他の部分は被告標章1と同一である。したがって、被告標章2は、本件登録商標1及び2と類似する。

被告標章3と本件登録商標3を対比すると、王冠をかぶった蛇の図形が類似している。被告標章3は、本件登録商標3と類似する。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

2  本件商標権の行使が権利濫用に当たるか。

(被告の主張)

(一) 昭和五三年ころ、コブラゴルフの前身であるコブラ・ゴルフ・インコーポレーテッドⅡ(以下「コブラゴルフⅡ」という。)は、原告の前身である寿商事株式会社(以下「寿商事」という。)から、寿商事のための特別のゴルフクラブ(以下「コトブキ用クラブ」という。)の供給を受けたいとの申入れを受け、両者間で交渉を重ねた。その結果、コトブキ用クラブに「KING COBRA」の文字(小文字表記を含む。)と王冠をかぶった蛇の図形の双方又は一方から構成される商標(以下「キングコブラ商標」という。)を使用すること、右商標は、コブラゴルフⅡが従来から、営業表示及び商品表示として使用していた「COBRA」の文字(小文字表記を含む。)及び蛇の図形の双方又は一方から構成される商標(以下「コブラ商標」という。)を基礎に創出することに合意した。コトブキ用クラブについては、寿商事独自の商品表示にするか、コブラゴルフⅡの商品表示のバリエーションにするか、いずれの選択もあり得たのであるが、右のように、キングコブラ商標を使用することにしたということは、コブラゴルフⅡの商品群の一シリーズとすることを選択したということを意味する。しかも、コブラゴルフⅡは、寿商事に対し、キングコブラ商標の使用と独占的販売代理店契約の成立とを結び付ける意向を示しており、これは、キングコブラ商標がコブラ商標の一シリーズであることを前提とするものである。

寿商事の代表者であった安本光夫(以下「光夫」という。)は、昭和五五年一一月、コブラゴルフⅡの交渉を継続中に、本件商標権1及び2については光夫名義で、本件商標権3については朴権煕名義で、密かに、「COBRA」の文字と蛇の図形から構成される本件登録商標の商標登録出願をした。

以上のとおり、本件商標権は、信義則に違反して取得されたものであり、信義則に違反して取得された商標権に基づく差止請求権等の行使は、権利濫用に当たり許されない。

(二) 寿商事は、キングコブラ商標の付された商品を、コブラ商標の付された商品群の一シリーズとして、販売し、宣伝広告してきた。さらに、原告は、平成七年三月以降、キングコブラ商標を付したコブラゴルフ製造に係るゴルフクラブを被告より買い入れて販売し、かつ、その宣伝広告を行ってきた。

我が国の関連取引業界において、キングコブラ商標は、コブラゴルフを出所として表示する著名商標として認識されているのであって、原告を出所として表示するものとして認識されたことはない。

コブラゴルフの出所を表示するキングコブラ商標の付された商品について、原告が、コブラゴルフの子会社である被告に対し、本件商標権に基づいて権利行使をすることは、権利の濫用に当たり許されない。

(原告の反論)

(一) キングコブラの名称を考案したのは光夫である。本件商標権の商標登録出願がされた昭和五五年一一月には、コブラゴルフⅡと寿商事とは没交渉の状態であり、両者の間で、再度販売代理店の交渉が始まったのは、昭和五六年二月以降である。また、コブラゴルフⅡは、コブラ商標を使用していたのであり、キングコブラ商標については、日本ではもちろん、米国でも使用しておらず、これを使用する意図もなかった。これに対し、寿商事は、本件登録商標を、自ら使用する意図があった。以上のとおり、本件商標権の取得には信義則に反する点はなく、これを理由とする権利濫用の主張は認められない。

商標法五三条の三は、商標の取消審判の申立てについて、商標登録の日から五年間の除斥期間を設けている。この除斥期間は、代理人等による不正登録という主張を、その期間経過によって一律に排除し、法的安定性を確保するものである。本件商標権の登録は、昭和五九年一月及び同年五月にされ、五年の除斥期間は既に経過している。五年の除斥期間経過後にも信義則違反を理由として、権利濫用とすることは、除斥期間の趣旨及び法的安定性から認められない。

(二) 寿商事も原告も、キングコブラ商標をコブラゴルフⅡ、あるいはコブラゴルフを出所として識別する商標として扱ったことはない。原告は、本件登録商標を自己のゴルフクラブ等に使用しているから、本件登録商標の出所表示は、商標権者である原告である。したがって、被告標章は本件登録商標の出所識別機能を阻害しており、本件商標権に基づく差止請求等には権利濫用に該当する事由はない。

3  損害額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 被告の本件商標権侵害行為により原告が被った損害は、以下のとおり三億五〇〇〇万円である。

被告は、前身である株式会社イタニトレーディング(以下「ITC」という。)時代の平成四年ころ、被告標章を付したゴルフクラブ等の輸入、販売を開始し、平成八年までに合計五〇億円を販売した。そして、通常の取引上、ゴルフ製品の販売業者が取得する利益率は、販売額の少なくとも七パーセントはあるから、被告は被告商品を販売したことにより合計三億五〇〇〇万円の利益を得ていると推測される。右利益は原告が受けた損害と推定される。

仮に、右主張が認められなかった場合、本件登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額を、自己が受けた損害とすべきである。本件商標権の使用に対する使用料は、通常右商品の売上高五〇億円の七パーセントを下ることはないから、原告の被った損害は三億五〇〇〇万円となる。

(二) 弁護士費用

原告は、被告の本件商標権侵害行為により、本件訴訟等を提起するため弁護士に依頼せざるを得なくなった。弁護士費用中少なくとも八二〇万円は、被告の本件商標権侵害行為により原告の被った損害である。

(被告の反論)

原告の主張は否定する。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告標章と本件登録商標の類似性)について

1  本件登録商標1は、王冠をかぶった蛇の図形及びその右側に横書きされた「KInG COBRa」の欧文字からなる。蛇の図形は、四個の突起部のある王冠をかぶり、首を右方に向けて、口を開けて舌を出し、胴部の上方は略S字状、下方は「の」の字状にとぐろを巻いたように描かれている。また、文字部分は「K」と「C」の文字が他の文字に比べて大きく描かれ、文字の下方に直線が配されている。本件登録商標1からは「キングコブラ」の称呼を、「キングコブラ」又は「蛇ないしコブラの王」の観念を、それぞれ生じる。

本件登録商標3は、本件登録商標1の蛇の図形と同一である。本件登録商標3から、「キングコブラ」の称呼を、「キングコブラ」又は「蛇ないしコブラの王」の観念を、それぞれ生じる。

2  被告標章1は、上段の右側に王冠をかぶった蛇の図形及びその左側に横書きされた「KING」の欧文字、下段に横書きされた「cobra」の欧文字からなる。蛇の図形は、三個の突起部のある王冠をかぶり、首を右方に向けて、口を開けて、長い舌を出し、胴部の上方は略S字状、下方は「の」の字を押しつぶした形状にとぐろを巻いたように描かれている。「KING」の文字部分は、右方に傾けて表示され、「K」の文字は、他の文字より大きく、縦棒が下方に長く、描かれている。「cobra」の文字部分は、縦方向に押しつぶされたように描かれている。被告標章1は、「キングコブラ」の称呼を、「キングコブラ」又は「蛇ないしコブラの王」の観念を、それぞれ生じる。

被告標章1と本件登録商標1とを対比すると、文字部分と図形の配列、文字部分における大文字か小文字の選択、文字相互の大きさ、図形における王冠の形状等について、若干異なる点がみられるが、両者とも「KING COBRA」の文字及び「王冠をかぶった蛇」の図形は共通し、外観、観念及び称呼において同一ないし類似である。被告標章1は本件登録商標1に類似する。

3  被告標章2は、被告標章1と同一の商標、及び右側に配置されたローマ数字「Ⅱ」からなる。

被告標章2のうち、「Ⅱ」の文字部分には、出所表示機能はないと解すべきであり、被告標章2の要部は被告標章1と同一の部分にある。被告標章2と本件登録商標1を対比すると、右2と同様に解すべきであり、被告標章2は本件登録商標1と類似する。

4  被告標章3は、被告標章1のうち王冠をかぶった蛇の図形と同一である。被告標章3は「キングコブラ」の称呼を、「キングコブラ」又は「蛇ないしコブラの王」の観念を、それぞれ生じる。

被告標章3と本件登録商標3とを対比すると、外観、称呼及び観念において同一ないし類似である。被告標章3は本件登録商標3と類似する。

二  争点2(権利濫用)について

1  前記第二、一の事実、証拠(甲四ないし三一、三四ないし三九、五一(枝番号は省略する。以下同様とする。)五四ないし五九、乙一ないし六〇、六二ないし六八、七一ないし七五、七八ないし七九、八一、八二、八四)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告は、昭和六〇年一〇月、寿商事のゴルフ用品等の輸入、販売部門を分離独立させて設立された会社であり、台東区上野の本店店舗を中心に、量販形態により、主として、ゴルフクラブ、その他ゴルフ用品等の販売を行っている。

(二) 他方、コブラ・ゴルフ・インコーポレーテッド(後記のとおり、承継会社がその後被告を設立するに至った。以下「コブラゴルフⅠ」という。)は、昭和四九年(一九七四年)、トーマス・レスリー・クロウ(以下「クロウ」という。)により設立され、ゴルフクラブ、その他のゴルフ用品を製造、販売していた。昭和五三年(一九七八年)、コブラゴルフⅠは、その営業をコブラゴルフⅡに譲渡し、クロウはコブラゴルフⅡの代表者となった。平成五年(一九九三年)、コブラゴルフⅡは、合併によりコブラゴルフとなった。平成八年(一九九六年)一月、アメリカン・ブランズ・インクがコブラゴルフを買収した。

コブラゴルフⅡは、昭和六二年ITCと販売店契約を締結し、ITCはコブラゴルフⅡないしはコブラゴルフが製造するゴルフクラブ、その他のゴルフ用品(以下、コブラゴルフⅠ、コブラゴルフⅡないしはコブラゴルフが製造したゴルフクラブ、その他のゴルフ用品を「コブラ製品」という。)の輸入、販売を行っていたが、コブラゴルフは平成八年一月被告を設立し、ITCは被告に営業譲渡をした。それ以降は、被告がコブラ製品の輸入販売を行っている。

(三)(1) コブラゴルフⅠ及びコブラゴルフⅡは、昭和五一年以降、コブラ製品を製造し、これにコブラ商標を付して、日本に輸出し、販売していた。なお、クロウは、別紙被告商標目録1記載の商標権を有し、同目録2記載の商標権につき専用使用権を有している。

(2) 寿商事は、米国から、他社製のゴルフクラブを輸入、販売していたが、昭和五三年ころ、コブラゴルフⅡに対して、特別注文品としてのコトブキ用クラブの製造方を依頼し、両者の間で交渉を重ねた結果、コブラゴルフⅡは寿商事のために、コトブキ用クラブを製造し、これを同社に供給することになった。

(3) 両者間で、コトブキ用クラブに使用する商標に関して検討がされ、寿商事は、昭和五三年一二月以降、コブラゴルフⅡに対し、コトブキ用クラブの名称を「KING COBRA」としたいとの提案をした。これに対し、クロウは、昭和五四年三月九日付書簡で、寿商事の担当者に対し、「COBRA」の文字を含む名称及び蛇の図形については、クロウらが日本において有する独占的権利に抵触するので、コトブキ用クラブに使用することは認められない旨回答をし、右提案を拒否した。

しかし、その後、寿商事とコブラゴルフⅡとの間で、コトブキ用クラブの名称を「KING COBRA」とし、これにキングコブラ商標を付すことを合意し(以下、キングコブラの名称ないしはキングコブラ商標を付したゴルフクラブ等を「キングコブラ製品」という。)、同年四月、コブラゴルフⅡから寿商事に対し、アイアンのバック部分に付すためのキングコブラ商標(図案)を送付し、その後寿商事の希望による変更等を行った結果、コトブキ用クラブに付すキングコブラ商標を合意した。同年八月、クロウにおいて、ヘッドの背面に貼り付けるキングコブラ商標の転写シートを発注し、準備した。

(4) 寿商事は、昭和五六年四月、コブラゴルフⅡに対し、ゴルフバッグの製造、販売に関し、コブラ商標の使用について許諾してほしいと要望したことがあった。

また、同年八月、寿商事とコブラゴルフⅡとは、①コブラゴルフⅡは、寿商事と、昭和五六年九月一日から昭和五七年一一月一日までの一四か月の導入期間を経た後、コブラ製品に関し、長期にわたる独占販売契約を締結したいと望んでいること、②寿商事は、コブラゴルフⅡから、五〇〇〇本のクラブを導入期間に輸入すること、③コブラゴルフⅡは、コトブキ用クラブとして三種類のアイアンの特別新モデルを設計、製造し、寿商事がこれを販売する、そのマスターの製作費用については、一モデル分をコブラゴルフⅡが、二モデル分を寿商事が負担するほか、寿商事は、右モデルの金型製作費用を負担するか、すべての特別モデルについて最低一五〇〇セットを輸入すること等を確認し、合意した。

クロウは、昭和五六年一〇月七日付書簡で、光夫に対し、寿商事がコブラ製品を販売する期間中は、「COBRA」の名称及び商標の使用権を原告に与えるが、販売契約が解除された場合には、「COBRA」の名称及び商標の使用権は消滅することも確認したいと申し入れた。

同年秋ころ、コブラゴルフⅡと寿商事との間で、販売代理店契約を締結し、寿商事は、同年九月ころから、コブラゴルフⅡからコブラ製品(ただし、キングコブラ製品は除く。)の購入を開始した。

(5) 寿商事は、同年一〇月ころ、コブラゴルフⅡに対し、キングコブラ製品の金型の送付方を依頼した。これに対して、クロウは、同年一〇月一二日付け書簡で、キングコブラ製品の金型の送付は可能であるが、寿商事が、キングコブラ製品を販売するに当たっては、コブラの名称を使用するためのコブラゴルフⅡの許諾が必要であり、この件については、まだ、交渉継続中である旨警告した。この点について、寿商事は、キングコブラの金型の送付を依頼したのは、キングコブラモデルが日本で売れるか否かを調査するためであり、第三者にキングコブラ製品を製造させる考えはないこと、また、キングコブラ製品をコブラ製品の一ラインとして考えていること、寿商事は、取引において、コブラゴルフⅡを騙したり、隠したりしない旨の回答の書面を送付した。

その後、コブラゴルフⅡと寿商事は、コトブキ用クラブのモデルについて合意し、寿商事は、昭和五八年一月ころから、コブラゴルフⅡの製造に係るキングコブラ製品も、購入するようになった。

(6) ところが、クロウは、昭和五八年九月一五日付書簡で、光夫の息子である安本昌煥(以下「昌煥」という。)に対し、コブラゴルフⅡが、キングコブラ製品の在庫を大量に抱えていること、右在庫は、寿商事が数量保証に反して、キングコブラ製品を注文しなかったためであることを伝え、右在庫をオーストラリアで販売することを提案した。これに対し、昌煥は、同年一〇月一日付書簡で、クロウに対し、日本のゴルフ市場の状況を説明するとともに、同年一〇月までに約束した数量のキングコブラ製品を購入することが難しく、キングコブラ製品をオーストラリアで販売するという提案を受け入れる旨の回答をした。その後、コブラゴルフⅡと寿商事は、在庫処理について交渉を重ねたが、寿商事から数量保証を満たす注文がなかった。クロウは、同年一二月五日付書簡で、昌煥に対し、期限を昭和五九年三月三一日まで延長すること、右期限内に購入保証額を満たす注文がない場合、コブラゴルフⅡと寿商事間のすべての契約の解約を考えていること、「COBRA」のロゴ、又は「COBRA」及び「KING COBRA」の名称の使用について、コブラゴルフⅡが許諾した場合以外は許可されていないことを伝えた。その後も、コブラゴルフⅡは、寿商事に対し、キングコブラ製品を注文するように催促した。

さらに、クロウは、同年八月七日付書簡で、昌煥に対し、昭和五八年、五九年と、購入保証を遙かに下回った注文しかなく、コブラゴルフⅡは大量の在庫を抱え、損害を被ることになることなどから、コブラゴルフⅡと寿商事間のすべての契約を解除すること、昭和五九年一二月三〇目までに、寿商事が有するコブラ製品の在庫はすべて販売すること、昭和六〇年一月一日以降は、コブラ商標は使用できなくなることを通知した。

(7) 右のような状況の中において、昭和五五年一一月一三日、寿商事の代表者である光夫は、本件商標権1及び2については自己の名義で、本件商標権3については朴権煕名義で、商標登録を出願した。そして、本件商標権1及び2については昭和五九年一月二六日、本件商標権3については同年五月二九日に、いずれも朴権煕名義で登録がされ、平成六年三月二八日、原告に移転登録がされた。さらに、昭和五六年二月一九日キングコブラ商標に係る別紙原告商標目録8記載の商標権について、同年三月一六日コブラ商標に係る別紙原告商標目録4ないし7記載の商標権について、いずれも李明淑名義で商標登録出願がされ、その後原告に移転登記がされた。

(8) コブラゴルフⅡは、日本においてキングコブラ商標について商標登録出願をし、拒絶されたことから、本件商標権2が、既に寿商事によって、登録されていることをはじめて知るに至り、昭和六〇年六月、寿商事に対し、同社はコブラ製品を販売する権利を有していないことから、本件商標権2をコブラゴルフⅡに譲渡するように申し入れた。これに対して、寿商事は、右申し入れを拒否する旨回答した。

(9) 昭和六二年、コブラゴルフⅡはITCと輸入代理店契約を締結し、ITCは、コブラ製品を輸入して、日本国内で販売した。また、コブラゴルフⅡは、平成三年ころから、米国内において被告標章を付したキングコブラ製品の製造、販売を再開し、ITCは、平成四年ころから、キングコブラ製品についても、輸入、販売を開始した。

(10) 平成六年一一月、本件商標権をめぐって、原告とコブラゴルフ間で再度話し合いが行われ、原告は、本件商標権を譲渡する意思がないことを明らかにし、原告とコブラゴルフ間で、本件商標権につきライセンス契約を締結する方向で交渉がされた。その後一年半以上にわたり、原告とコブラゴルフ(買収後は、アメリカン・ブランズ・インク)との間で、ライセンス契約の条件等について交渉が行われ、右交渉経緯に沿って、平成七年三月から、原告は、ITCないし被告から、キングコブラ製品を含むコブラ製品を購入し、販売した。しかし、ライセンス契約は締結には至らなかった。

(11) 平成八年六月、原告は、被告に対し、被告標章を付したゴルフクラブ等の輸入販売の中止等を求める通知書を発送するとともに、同年九月、税関に対し、輸入差し止めの申立てを行った。これに対し、被告は、同年一二月、当庁において、原告に対し、妨害排除の仮処分命令申立てを行った。

(四) 寿商事及び原告は、従来から、ゴルフ用品について、自らは製造を行わず、専ら販売を行い、内外の数多くのメーカーの製造を扱っている。昭和五八年ないし昭和五九年ころ、寿商事は、コブラクラブⅡからキングコブラ製品を輸入し、販売していたが、その宣伝広告において、キングコブラ製品を、寿商事が販売している他社の多くの製品と全く同じように扱っていることに照らすと、キングコブラ製品をコブラ製品の一シサーズ品として扱ってきたものということができる。

もっとも、原告は、平成六年四月ないし九月ころから、キングコブラ商標を付したグローブ、ゴルフクラブ及びキャディバッグを、自ら製造して販売するようになり、また、平成七年三月ころから、ITCからコブラゴルフの製造に係るキングコブラ製品も購入して販売した。しかし、キングコブラ製品の広告については、原告が扱う他社の多くの製品と同じように扱っている。

(五) ところで、昭和五一年ころから、日本国内で販売されるゴルフ用品のカタログ等に、コブラ商標を使用したコブラ製品の広告がされている。また、昭和五九年ころには、コブラ商標を使用したコブラ製品の広告の中に、キングコブラ製品が、コブラ製品の一シリーズとして紹介されている。その後しばらくの間、キングコブラ製品の広告は行われなかったが、ITCが、コブラゴルフⅡからキングコブラ製品の輸入を開始した後である平成五年ころは、キングコブラ製品の広告が行われ、キングコブラ製品を含むコブラ製品の広告には、販売元としてITCないし被告の名称が掲載されるとともに、キングコブラ商標が使用されている。

(六) コブラ商標は、「COBRA」の文字(小文字表記を含む。)と蛇の図形の両方又はいずれか一方により構成される。このうち蛇の図形は、首を右方に向けて、口を開けて、長い舌を出し、胴部の上方は略S字状、下方は「の」の字状にとぐろを巻いたように描かれている。これに対し、キングコブラ商標は、「KING COBRA」の文字(小文字表記を含む。)と王冠をかぶった蛇の図形の両方又はいずれか一方により構成される。このうち、蛇の図形は、三個ないし四個の突起部のある王冠をかぶり、首を右方に向けて、口を開けて、長い舌を出し、胴部の上方は略S字状、下方は「の」の字状にとぐろを巻いたように描かれている。

以上のとおり、キングコブラ商標は、コブラ商標における「COBRA」の文字や前記のような特徴をもった蛇の図形部分が共通しているので、一般需要者は、キングコブラ商標をコブラ商標と何らかの関連のある商標であると認識するものと考えられる。

2  右認定した事実を基礎に、以下検討する。

①  コブラゴルフⅠ及びⅡは、昭和五一年から、既に、日本国内において、コブラ商標を付したコブラ製品を販売していたこと、②キングコブラ商標は、コブラゴルフⅠ及びⅡが、自己の商品表示ないし営業表示として使用していたコブラ商標を基礎にして案出された商標であり、商標相互の、使用態様、類似性等に照らして、一般需要者は、キングコブラ商標をコブラ商標と何らかの関連のある商標であると認識すると考えられること、③キングコブラ製品は、そのそも、コブラゴルフⅡが、寿商事から、特別に依頼を受けて製造したゴルフクラブであり、コブラ製品の一シリーズと考えるのが自然であること、④寿商事とコブラゴルフⅡとの間の交渉経緯に照らすと、寿商事が、キングコブラ商標を、自己商品の標章と考えていたとは認め難く、むしろ、寿商事も、キングコブラ製品をコブラ製品の一つとして認識していたと解するのが相当であること、⑤さらに、昭和五三年からのコブラゴルフⅡと寿商事との取引経過に照らすと、コブラゴルフⅡは、終始一貫して、キングコブラ商標をコブラ製品に関する商標の一つと考えて行動していたこと等の事情を総合すると、昭和五五年一一月、光夫が、コブラゴルフⅡに無断で、コブラ製品の一シリーズとして考えられていたキングコブラ製品のためのキングコブラ商標について、本件商標登録出願したことは、信義則に反した行為というべきである。この点について、右登録出願がされたころ、コブラゴルフⅡと寿商事間において、キングコブラ製品に付する商標やその他の事項についての交渉が、一時中断しており、また、両者の間で販売代理店契約は成立していなかった事情があるが、そのような事情は、右の認定を左右するものとまではいえない。

さらに、光夫らが右出願を行った後も、寿商事又は原告は、コブラゴルフⅡ又は被告から購入したキングコブラ製品をコブラ製品の一シリーズとして宣伝広告、販売していたこと、平成六年四月ころからは、原告も独自にキングコブラ商標を付したゴルフクラブ、キャディバッグ及びグローブを製造、販売してはいるが、原告の独自の標章であるということを積極的に宣伝等しているとは認められないことなどの事情も考慮すると、原告が、コブラゴルフの子会社である被告に対し、前記のとおり信義則に反して取得した本件商標権に基づき、被告標章の使用の差止め等を請求することは、権利濫用に該当すると解するのが相当である。

なお、原告は縷々反論するが、いずれも採用しない。

よって、原告は被告に対し、本件商標権に基づく差止請求及び損害賠償請求をすることは許されない。

三  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)

別紙原告商標目録

登録番号:第一六五五二〇九号

出願日:昭和五五年一一月一三日

登録日:昭和五九年一月二六日

更新登録日:平成六年八月三〇日

商品の区分:第二四類

指定商品:運動具、その他本類に属する商品

出願人:安本光夫

登録名義人:原告

登録商標:aのとおり

登録番号:第一六五五二一〇号

出願日:昭和五五年一一月一三日

登録日:昭和五九年一月二六日

更新登録日:平成七年五月三〇日

商品の区分:第二四類

指定商品:運動具、その他本類に属する商品

出願人:安本光夫

登録名義人:原告

登録商標:bのとおり

登録番号:第一六八六〇二〇号

出願日:昭和五五年一一月一三日

登録日:昭和五九年五月二九日

更新登録日:平成六年一一月二九日

商品の区分:第二四類

指定商品:運動具、その他本類に属する商品

出願人:朴権煕

登録名義人:原告

登録商標:cのとおり

登録番号:第一七〇六五一八号

出願日:昭和五六年三月一六日

登録日:昭和五九年八月二八日

更新登録日:平成七年二月二七日

商品の区分:第二二類

指定商品:はき物(運動用特殊靴を除く)かさ、つえ、これらの部品及び 附属品

出願人:李明淑

登録名義人:原告

登録商標:dのとおり

登録番号:第一七一七三三三号

出願日:昭和五六年三月一六日

登録日:昭和五九年九月二六日

更新登録日:平成七年二月二七日

商品の区分:第二一類

指定商品:装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具

出願人:李明淑

登録名義人:原告

登録商標:eのとおり

登録番号:第一七一七三三四号

出願日:昭和五六年三月一六日

登録日:昭和五九年九月二六日

更新登録日:平成七年二月二七日

商品の区分:第二一類

指定商品:装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具

出願人:李明淑

登録名義人:原告

登録商標:fのとおり

登録番号:第一七三一九〇六号

出願日:昭和五六年三月一六日

登録日:昭和五九年一一月二七日

更新登録日:平成七年三月三〇日

商品の区分:第一七類

指定商品:被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)

出願人:李明淑

登録名義人:原告

登録商標:gのとおり

登録番号:第一七三一九〇〇号

出願日:昭和五六年二月一九日

登録日:昭和五九年一一月二七日

更新登録日:平成七年三月三〇日

商品の区分:第一七類

指定商品:被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)

出願人:李明淑

登録名義人:原告

登録商標:hのとおり

別紙被告商標目録

登録番号:第一二三四七六七号

出願日:昭和四八年八月二七日

登録日:昭和五一年一一月一八日

商品の区分:第二四類

指定商品:ゴルフ用品、その他本類に属する商品

出願人:トーマス・レスリー・クロウ

登録名義人:トーマス・レスリー・クロウ

登録商標:iのとおり

登録番号:第七九七一三三号

出願日:昭和四一年一二月二八日

登録日:昭和四三年一一月一四日

商品の区分:第二四類

指定商品:スキー締具、その他の運動具

出願人:デュコ貿易株式会社

登録名義人:川西和子

登録商標:jのとおり

別紙

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